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888888888888888888888
8888888888
888......


ハチが玄関脇のメーターボックスに巣を作った。
たった一日で、ピラミッドの奇跡。


蜜蜂だった。


ネットと電話帳で駆除業者を探し、即決して依頼。
電話を介しての見積りでは、2万円以内で収まるとの話だった。


若い小太りのヒゲ面と痩せた小柄な老人の二人で、やってきた。


「う〜ん…これはでかいですね〜。
申し訳ありませんけど、見積りより一段階高くなってしまいますが…」


若いほうが言った。
もちろん、いまさら、止めますなんて言えるはずがない。


「何千匹という感じですか?」


「いや、何万というレベルでしょうね」


かくて駆除作業が始まった。


危険だということで、何をどうしたのか、
作業の経緯を見ることはできなかった。


mixiより2010年05月11日の日記を転載)

蒸けの湯のおばちゃん(2006年10月25日の日記より)

女湯のほうで、けたたましい笑い声が上がった。


酔っ払ってでもいるのだろうか、
歳はわからないが、若くはなさそうな女が、
先刻から、ずっと、大声で喚いていた。


笑い声に混じって、聞き取れることば…
「彼氏の名前は?」
「いい男なんでしょう?」
誰かと会話しているようでもあるが、
相手の声は聞こえない。


八幡平の蒸けの湯温泉に、女と来ていた。
男湯と女湯は別れていたが、
どちらからも、ガラス戸を開けて外に出ると、
混浴の露天風呂に行ける。
上部の空いた、高い木の仕切りを隔てて、
二人別々に入浴しているところであった。


おばちゃんの喚き声が、聞こえなくなった。


不意にガラスの引き戸が、がらがらっと開け放たれる。


湯気の向こうに、女が立っている。


「●●さんはいますか〜!
××ちゃんが呼んでるよ〜!
●●さ〜ん、ほら返事しなよ〜!
××ちゃんが寂しがってるから、こっちおいでよ〜!」


●●は俺の名前、××は連れの名前だ。


もちろん俺は湯気に隠れて、死んだフリをしていた。

フォルコルン(2006年11月05日の日記より)

フォルコルン。
ぬいぐるみの猫の名前である。


ライ麦全粒粉のドイツパンにちなんでいる。
黒パンのように真っ黒で、もこもこしているから、
フォルコルン。


パンのフォルコルンは、新宿の伊勢丹で見つけた。
ずっしり重くてハードだが、中はしっとりの、
本格的なライ麦パンである。
もこもこして、食べやすいとはいえないが、
噛めば噛むほど味が出て、病み付きになる。


伊勢丹神田精養軒の共同開発商品なので、
他のどの店でも売っていないという。
新宿の街は嫌いだが、このパンを買うだけのために、
せっせと通いつめたものだった。


ある日突然、売り場からこのパンが消えた。
店員に訊くと、製造打ち切りになったという。
再発売の予定もないそうだ。
あまりに本格的過ぎたからだろうか。
それとも、作るのに手間がかかるといった、
製造上の問題か。


最後の一塊がまだ冷凍庫に残っていた。
食べ物だから、家宝にするわけにも行かない。
いつ食べるべきか、三日三晩悩んだ挙句、
そのまま冷凍しておくことにする。


その後、間もなくして、大病で入院した。
脳の病気なので、食事に関しては比較的自由だった。


家族が最後のフォルコルンを持ってきてくれる。
幸いにも末期の水ではない。
押し戴いて、大事に大事に、いただくことにする。


食堂にオーブンがあるので、厚めに切った一枚を入れ、
スイッチを入れる。


しばらくして ナースが病室に駆け込んできた。


「●●さん、パンが黒焦げですよ〜!」


黒パンを見て勘違いしたのだ。


惜しまれつつ数日で、最後のフォルコルンは、
病人の胃袋に消えた。


そして、ぬいぐるみのフォルコルンだけが残った。

かるちゃーしょっく(2008年11月08日の日記より)

阪大を8年掛けて卒業した、明石家さんまそっくりの同僚S君を相手に、一応のシミュレーションは重ねた。
それなりの成果があるものと期待していたのだが…


そういえば、さんまさんは生粋の大阪人ではない。
確か和歌山生まれの奈良育ちだ。
S君も実をいうと、実家は奈良だったのだ。


大学を出て最初に就職した会社で、大阪出張を命じられた。
初めての大阪だ。
不安だった。怖かった。
自分は「こてこて」に耐えられるだろうか?


なんばCITYでイベントがある。
その管理運営が仕事だった。


といっても、新人のことだ。
もっぱら裏方の仕事である。
だからジーパンにカジュアルなシャツという、かなりラフな出で立ちである。


ところが、ある日、緊急事態が発生した。
大事なお得意さんが急遽、視察に来ることになったのだ。
裏方の新人といえども一応、ネクタイくらいは着用しほうがよいと、電話で命じられた。


ネクタイなど用意していなかったので、午後一までに、なんとかしなければならない。


右も左もわからない、なんばCITYをうろうろして、めぼしい店を探し回った。
なにしろ時間が迫っていた。


やっと見つけたのは、駅の売店をちょっと派手やかにしたような店。


以下のやり取りで、店員のセリフは当然、大阪弁でなければならない。
できの悪い大阪弁もどきでは、しかし、かえってリアリティを欠きそうなので、あえて「関東弁」に翻訳することにする。


バージュにケバい化粧をした、光り物だらけのおねえさんが、なれなれしく迫ってくる。


「何をお探しですか?」


「ちょっとネクタイを…
なるべく地味なやつがいいんですけど」


「それならば、これなんて、いかが?
ほら、しゃれてるでしょう?
おにいさんにぴったりですよ」


「いや…ちょっと派手すぎて…」


無地かストライプがほしかったのだが、そこに陳列してあるのは、柄物ばかりだった。
しかも、花などを大きくあしらった、ど派手なやつばかり。


「これなんか、おとなしいほうじゃないですか。
若いんだから、ちょっと派手なくらいのほうがいいのよ。
ほら、これなら、ぴったり」


そういって、ぼくの胸にあてがってみせる。


「ほら似合う似合う!女の子がほうっておかないわよ。
これにしちゃいなさいよ」


結局断りきれずに、紺地に赤い大きな花柄のやつを買う羽目になった。


めでたくお役目を果たすことはできたが、そのネクタイを着けたのは、後にも先にもその一度だけだ。

アイサンサン

美空ひばりが「愛燦燦」を歌っている。
液晶に映し出される光の像とデジタル化された歌。
すべてが虚像。
が、美空ひばりという実体そのものも、もはや存在していない。


時計代わりにテレビを見ながら、さっと昼食を済ませ、午後1時に家を出る。
3時に都内の美術館で、イオリさんに会う約束をしている。
イオリさんは三十代後半の独身女性。
フリーの編集者だ。
エルネストシュヴァルツヴァルトシュトリンガー展の招待券が余ったので、観に行かないかということだった。
イオリさん本人は用事があるので、さっと見てすぐに立ち去るとのこと。


最寄駅に着くと、人身事故で電車が停まっていた。
15分くらいの余裕は見ていたが、いつ動くかわからないので、メールしてみた。


「人身事故で遅れそうです。どうしましょう?」


「ゲロリンゲンにチケット預けておきますので、ごゆっくりと。たぶんお会いできませんね。今度またお仕事でね。」


ゲロリンゲンとは、その美術館にほど近いカフェだ。
イオリさんはそこの常連で、僕もそこで何度か彼女と、仕事の打ち合わせをしている。


結局ゲロリンゲンには4時過ぎに着いた。
マスターは僕の顔を見るなり、チケットを手渡してくれた。


エルネストシュヴァルツヴァルトシュトリンガーは、ナメクジの絵ばかり描いている。
平面のみならず、立体もあった。
スライムみたいな素材で作った5メートルくらいの、さわれるオブジェもあった。


巨大ナメクジの冷たい感触を掌で玩んでいると、


「たこやまさん!」


と呼ぶ声がする。
イオリさんだった。


「用事が思いのほか早く済んじゃったんです。もしかしてたこやまさん、まだいらっしゃるんじゃないかと思って…次の予定もなかったから」


デビュー当時の浜崎あゆみさんに似ている。
スピードスケートの岡崎朋美さんや歌手のhitomiさんに似ていると言われることも、よくあるらしい。
いずれにしても、かなりの美人だ。


「何よ、その顔。取って食われるなんて思ってるの?」


一見クールな印象だから、ちょっと近づきにくくもある。
高ピーなわけではなく、話してみるとけっこう気さくな人なのだが…。
わかってはいるけど、なんとなく怖かったのだ。


「いえ、予期していなかったことなんで、びっくりしているだけです」


「一通り見たら、ちょっと早いけど、食事でもしませんか?仕事抜きで…」


夜は特に予定がなかったので、従うことにする。


ゲロリンゲンの三軒隣りに小さな居酒屋があった。
僕は初めてだが、イオリさんはよく来るらしい。
蓼食う虫という店だ。


まだ6時を過ぎたばかりなのに、けっこう込んでいた。
狭っ苦しいカウンターの、一番奥に並んで陣取った。
座るなり、信楽の小鉢が二つ前に置かれた。
サザエか何か、貝を薄切りにしたような物が入っていた。


「なまこ、大丈夫?あたし大好きなの」


先付けかと思ったが、違うらしい。
イオリさんのスペシャル、お店との暗黙のお約束のようだ。


「特に好きではないけど、大丈夫です。いただきます」


イオリさんは、にこりとした。
そして、ぱくぱくと自分の分を口に放り込み始める。
あっという間に小鉢が空になった。
少し大きな備前風の鉢に盛ったお代わりが、すぐイオリさんの前に置かれた。


イオリさんと食事をするのは初めてなので、ペースやステップがわからない。
流れを彼女に任せて、受身に徹することにした。


僕は全く飲めない。
イオリさんは飲めるが、酒飲みというほどでもないらしかった。
勝手に飲んで、勝手に食べている。
気さくだが、マメな人ではないようだ。
僕も食べたいものをほどほどに注文して、なんとなく話を合わせていた。


少し酒が回ったのだろうか、イオリさんが、いたずらっぽい目で言う。


「あたし口が大きいのよね、ほら…」


言うなり右手をこぶしにして、ああんと開けた口に放り込んでみせた。
手首まで悠々入ってしまった。


それからしばし、何事もなかったかのように、手長えびのから揚げをぱくついていたイオリさんは、


「ちょっとトイレね」


とストレートに宣言して立ち上がった。


特にプレッシャーを感じていたわけでもないのだが、なんとなく気を遣いすぎて、ちょっと疲れていた。
正直ほっとした。


5分以上経っても、イオリさんは戻ってこない。
まあ、5分や10分そこらなら、編集者にはよくあることだ。
席を外して、仕事上の電話やメールをしたりするのだ。


ところが30分経っても戻ってこない。
さすが心配になって、様子を見に行く。


トイレは男女別になっている模様だが、その途中の廊下で、白いエプロンをしたおかっぱの若い女店員が、無言で何か白い粉を撒いている。
中越しに見ると、何やら床で、黒い大きな塊がもぞもぞと蠢いていた。


「なんです、これは?」


「あっ、ナメクジみたいです」


店員は意外に冷静だった。
それで塩を掛けているのか…。
でも、ナメクジではないような気がする。
巨大なまこではないだろうか?


肛門のように閉じた穴が、裏返りながらむくむくと、脱肛みたいに飛び出す。
丸い塊になった。
風船のように膨らんでいく。


見るとそれは、人の頭だった。
イオリさんだ。


苦しそうに、それでいて快楽に咽ぶように顔をゆがめながら、イオリさんの頭を付けた物体はみるみる溶けていった。


背後では美空ひばりが「愛燦燦」を途切れ途切れに歌っている。
有線だろうか。


愛燦々とこの身に降って…人はかわいいかわいいものですね…人生って不思議なものですね…

『山本さん家の場合に於るアソコの不幸に就て』という漫画本がある。

ひさうちみちお作の恐るべき短編集である。


中でも印象的だったのは『不幸』という作品。

具体的な展開は忘れたが、主人公は「不幸」である。

名前でも、あだ名でも、暗喩でもない。

文字どおりの「不幸」、つまり「不幸」という漢字2文字なのだ。


これほどラディカルな漫画は見たことがない。

この作品集よりさらに前に出た『愛妻記』という小品では、主人公は男のモノだった。

それがさらに進化して、ついにはモジと化したのだ。


同じ本の中に、『アソコの大冒険』という作品もある。

ここでは文字の「アソコ」が街へ出ることによって、

さまざまな騒動を巻き起こしたり、騒動に巻き込まれたりする。


ひさうちといえば、妄想的で、変態チックな作品も多いが、

時に極めてクールな思弁性を垣間見せることがある。

上記2作も一見すると、哲学的な寓話であるかのように見える。

が、実は、そうではない気もするのだ。


作品の背後にあるのは、抽象的なものでも、シュールなものでもなく、むしろ、

乾いた現実感覚に裏打ちされた、かなり具体的な視点なのではなかろうか。


言い換えれば、ひさうちは実際に、

「不幸」や「アソコ」に会ったのではないか、ということだ。

ぼくも同じような経験があるからである。


曲がり角を折れたところで、「女」が待っていた。

でかい。

身長2メートル以上はあろうか。


「さあ、かかってらっしゃいっ!」


「い、いえ、女性に対して手は出せませんから」


「なに、いいこぶってんだよ、ぼうや。ここに頭つっこむんだよ。怖くないから」


そう言って「女」は、くノ一で囲まれた四角いブランクを指差した。


回れ右して逃げようとする。

すると、後ろからも別の「女」が迫っていた。


仕方がない、強行突破だ。

頭を下げて、猪のごとく全力疾走で、前の「女」に向かう。


くノ一の間に体が入った。

とたんに胴体をぎゅっと絞めつけられる。

逃げられない。

苦しくて、だんだん気が遠くなってくる、


朦朧とした意識の中で、見れば「女」は、さらにひとり増えて、3人になっていた。


ついに失神する。その瞬間、胴体がふっと緩んだような気がした。


「さあ、早いこと、やっつけちまいな」


そして次々に…


ぼくにとっては、屈辱的で衝撃的な字姦初体験だった。

とぺぼ(2007年08月16日の日記)

「ほら、とぺぼが来たよ」


母が言う。


母の実家、秋田の田舎には「とぺぼ」が出没した。
一応人間の形をしていたが、実際は何だったのかわからない。
幼い僕にとっては、「とぺぼ」は「とぺぼ」、
それ以外の何者でもなかった。


「とぺぼが来た!」


誰かが口にすると、その場にちょっとした緊張が走る。
でも、窓を閉め切って警戒したり、なんてこともない。
通り過ぎるのを、なんとなく待つだけだ。


「とぺぼ」のほうも別段、悪さをするわけではない。
ただやってきて、去っていくだけだ。


背はあまり高くない。
男か女かわからないが、色白で下膨れ。
頭は弁髪で、大国主命のような白装束だった。


そんな「とぺぼ」のことは、すっかり忘れていたのだが、
最近になって、思いがけず再会することになった。
いつの間にか、関東に引っ越していたらしい。
相変わらずの弁髪、相変わらずの白装束で歩き回る「とぺぼ」に、
時々遭遇するようになったのだ。


なるべく目を合わせないようにして、やり過ごすが、
下膨れの顔をそれとなく見ると、
離れ加減の両目は、やや釣りあがっている。
年齢不詳で、子供のようにも老人のようにも見える。
あれから、だいぶ経っているというのに…


公園を通り抜ける。
木陰のベンチに「とぺぼ」が座っている。
両手を膝に置き、背筋をぴ〜んと伸ばしている。


こちらを見る。
何がうれしいのか、にこにこしている。
口をあけて、いきなり、べえ〜をする。
歯の抜けた口からこぼれた真っ赤な舌は、
とんがって二股に裂けていた。