2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

目が覚めると…

目が覚めると思わぬ場所にいることが、たまにある。 なぜそこにいるのか…どころか時には、 そこがどこなのかすらわからない。 記憶が途絶えたのか、異空間に入ってしまったのか… 自分は、酒が一滴も飲めない。 酔いつぶれて正体を失くすなんてことは、あるは…

線量計

公園で黄色い携帯を拾った。 携帯というよりスマートフォンだろうか。 よく見ると、しかし、ディスプレイが小さすぎるし、 ボタンも少なすぎる。 線量計のようだ。 確かドイツ製の高価なやつ。 スイッチらしいものから始めて、ボタンを次々にいじってみたが…

三つ目信号

信号が変わらない。 交差点ではなく、ただ横断歩道があるだけの道だから、 待たされるのは仕方ないが、せめて押ボタン式にしてほしい。 この街道は、けっこう交通量が多い。 信号無視して横断するのは命がけなのだ。 おばさんが3人、いらいらして待っている…

おろしゃ大黒

ロシアの黒パンを齧っていると、電話がハラショーと叫んだ。 朝っぱらから、なんじゃらほい。 「はひ、もごもごでふが…」 パンが口の中に残っていて、うまくしゃべれない。 「お世話になっております、第八生命の金座です。 朝早く失礼いたします。 きょうの…

いはうやうのない名文

名文家で知られる、ある作家の愛用語であった。 言いようのない、では陳腐そのものだが、 いはうやうのない(いおうようのない)には、 独特の重厚なリズムがある。 すっかり気に入り、真似して使ってみた。 いはうやうのないリズムに魅せられたぼくは、 こ…

毒美

「青美」と書いて「しげみ」と読む。 自分でも大好きな名前だった。 1週間前までは… 1週間前、市の中学の文集に青美の詩が載った。 ちょっと照れくさかったが、うれしかった。 おかあさんの目 うちおかあさんは まみちゃんのおかあさんよりブスだ うちおか…

ポッポーとヒョロゲ

1日2回、つまり1往復しかバスの来ない村である。 隣接する家は1軒だけ。 他のお隣さんは遠く離れている。 そのいずれもTさんである。 Tは祖父母の家の姓でもある。 秋田の祖父母の家。 どこまでも広がる田んぼの中に、その家はあった。 垣根も境目もな…

許せない

許せない食べ物というのがある。 筆頭はフルーツサラダだ。 あまり深い理由はない。 とにかく野菜と果物を混ぜこぜにするのが、 どうしても許せないのだ。 気持ち悪くて仕方がない。 ましてフルーツにドレッシングやマヨネーズがかかっていようものなら、 絶…

雨の日には花を買って

駅を降りて商店街に入ると、急に雨が降り始めた。 大した雨ではないが、小さな花屋さんが目に入ったので、 雨宿りがてら立ち寄る。 入り口の外、風が吹けば雨の降りかかる微妙な位置に、 198円均一の小鉢が並んでいる。 かわいい花ばかりだ。 雨粒が顔に…

ウォーター・マッシュルーム

用水路を覗き込むと、ミズキノコだらけだ。 まるで、クラゲみたいだ。 オオトカゲが進化して…いや、不本意に順応して、 海に潜れるようになったようなものだ。 ミズキノコは、しかし、なぜ水環境に順応したのだろう。 ウォーター・マッシュルーム… 外国ではウ…

華に額づく

スェーデン在住の知人から、ずっしり重い荷物が届いた。 『体系への情熱 ー リンネと自然の体系への夢』なる豪華本であった。 リンネ生誕300年公式記念出版本で、 贈り主は日本語版の翻訳を担当した人である。 http://www.linnaeus.se/se/jap.4.3b063add1101…

史上最強のクマさん

昼飯時にニュースを見ようと思ってNHKをつけると、 「ワイルドライフ」の再放送をやっていた。 しかも京都法然院の特集。 http://t.co/ngSaGBW 2010年5月、この山寺で川本真琴さんのライブがあった。 鳥や蛙のバックコーラスの中、 蚊に刺されながら、畳敷き…

禁じられた遊び

マンションの玄関ホールに入ると、5階のS婦人が、 エレベーターを止めて待っていてくれた。 急いではいなかったが、待たせるのも悪いので、 小走りに飛び乗る。 「どうもすみません…こんにちは」 いまどき珍しい、サザエさん風の頭をした、 気のいいおばさ…

華遍路

道端に、やたら目立つ橙色は、 ナガミヒナゲシの花である。 帰化植物らしいが、そうした種族の例に漏れず、 急速に増殖しているようだ。 漢字で書くと長実雛罌粟。 ひときわ長い果実が特徴である。 その長い実やお辞儀するような蕾が、 おいでおいでをしてい…

俺の壺

おばさんは桐の箱からピンクの壺を取り出した。 いかにも安っぽい作りの小ぶりの壺だ。 「骨壺なのよ。もちろん、ただの壺ではありませんよ。 幸運が怒涛のように舞い込むのよ… なんて言っても、本気にしてくれないでしょうから、 正直に言っちゃう。 『分相…

極美というレジスタンス〜アシク・ケリブ

なぜか急にまた、パラジャーノフに会いたくなって、 DVDの『アシク・ケリブ』を買い求めた。 セルゲイ・パラジャーノフを初めて知ったのは、いつだったろうか。 その名を知るや、『ざくろの色』の貴重なVHSをやっとのことで入手した。 それは映画とい…

鬼の目には水晶の涙

涙の大安売りである。 今に始まったとではないが、涙の価格は下落する一方だ。 ほら、今も動物番組で、ゲストの、 くしゃくしゃになった泣き顔が、大写しになっている。 美しくない。 本物の美しい涙を何度見たろうか。 ひとつだけ、はっきりと覚えているも…

色即是空な平衡

福岡伸一氏が気になっていた。 『生物と無生物のあいだ』はぜひ読んでみたいと思っていたのだが、 根がへそ曲がりなものだから、あれだけ売れてしまうと、 警戒心が募り、忌避心が頭をもたげてくる。 書店で『世界は分けてもわからない』が平積みになってい…

夜だか系

ぼくは草食系男子ではありません。 草食男子です。 ほとんど草ばかり食って生きていますから。 空気や霞も食っているので、草食空食男子、 と言ってもよいかもしれません。 草食系とは比ゆ的な言い回しであることは、 もちろん承知しています。 ちょっと、お…

学問失格

「武士道における衆道の研究」註1 「心中の体験的考察」註2 「竹取物語の思想史的考察」註3 「王朝における色好みの研究」註4 註1:衆道とは要するに男色、 つまり男同士の麗しき恋愛のことですね。 註2:近松の心中物をめぐって… 「体験的」がミソな…