2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

O星人

舞踏のような白塗りスキンヘッドの半裸男が、 目の前に立っている。 両手を後ろ手にして、腰と膝を軽く折り、 やや前のめりの姿勢で、俺を見上げている。 「だんな、作家さんですよね? 一目見りゃあ、わかりますよ」 不意に現れて、不意に声を掛けてきた。 …

三日月坂

月のない三日月坂を歩いている。 携帯が壊れ、時計は持っていないので、時間はわからない。 通り過ぎたどこかの電光掲示板が、10時少し過ぎを示していたので、 それよりも後であることは確か。 坂を上っている。 いや、上っていた。 さっきまでは確かにそう…

この木のキノコ

多肉植物の鉢植えにキノコが生えた。 生白いブナシメジみたいなやつが一本。 昨日は無かったような気がするのだが… けっこう日当たりのよい窓辺に置いてある。 西日もよく当たるし、じめじめもしていない。 とてもキノコに向いた環境とは思えない。 この不気…

サモメタル犬女

公園に隣接するN通りを午後4時前後に通過することが多い。 その時間だと決まって、300メートルほどの通りのどこかで、 その人と擦れ違うのだ。 ぼくは家に向かっている。 その人はK駅のほうへ歩いて行く。 眼の覚めるような美人というわけではない。 思わ…

pseudo-synesthesia

共感覚というのとは違うと思う。 感覚の崩壊、感覚の幽体離脱、 感覚の憑依・融合・置換・弁証法・アウフヘーベン… どう表現したらよいのかわからない。 音が見える。 色が聞こえる。 形が臭う。 匂いが聞こえる。 音が痒い。 色がくすぐったい。 匂いが眩し…

台所で転んだ彼女の話

ナナシさんは張り切っていた。 ドアの10センチ手前でいつも帰ってしまうボクが、 やっと中に入ってくれたから。 ボクの大好物の焼きナスを、 ネットの懸賞で当たった直径30センチの九谷焼の大皿に、 山盛りにするつもりなのだ。 「外れたんだよ、本当は…

つけまつたけ

隣接するマンションが数日前から足場に囲まれている。 外装だけいじるらしい。 きょうも朝から作業員たちは高歌放吟、 人目も人耳も憚らずエロ話を撒き散らしている。 仕事にならないので出かけたい気分だが、 過敏性腸症候群が足をひっぱって行かせてくれな…

クリオネーサン

栗田さんは何かに似ていると思った。 なんだろう… あっ、クリオネだ。 透明といってもいいほど色白で、唇やほっぺただけが、 ほのかに赤くなっている。 なんだか動きがパタパタしていて、 歩くときも小鳥が羽ばたいているみたいだ。 「おなか、すいちゃった…

オドヤマさん

オドヤマさんは、とっても陽気なおねえさんだ。 おねえさんといっても実は、ぼくより年下だから、 本当は妹で、オドちゃんとか、愛称で呼ばなければならないのだろう。 だけどつい、おねえさんと呼びたくなる。 いや、ひょっとしたら、おばちゃんのほうがぴ…

きょうもきょうとて厄落とし

フォークで臍のゴマを掃除していたら、 孔の奥からボコボコとシュウマイがで飛び出してきて、 次々にその皮が向け、 中から猫とミョウガとウンコと初恋の女性が出てきた …という夢を見た。 こういうタイプの夢を自分は日常的に見るのだが、 他の人はどうなの…

黄金遁走曲

4月4日逢魔が時、横浜黄金町を目指して家を出た。 ライブハウス「試聴室その2」で、 「大谷能生自主企画 Vol.2」なるイベントがあるのだ。 ゲストのタイガーフェイクファがお目当てだった。 出掛けに積読の山から適当に、1冊を手に取る。 久生十蘭の「黄…

サイヒの祭り

長実雛罌粟がぽつぽつとオレンジの頭を擡げ始めた。 「もうすぐお祭り…」 サイヒさんが植え込みの雛罌粟の群れを見つめながら、 ぼそりと言う。 僕は10年以上ここに住んでいるけど、 そんな祭りのことは知らない。 いつも地上から10メートルより上のことと、…

輪亀

パトカー、消防車、覆面パトカー…なんだ、なんだ? 夜8時を回っていた。 物騒な車たちがマンションを静かに囲んでいた。 何か事件があったのだろうか。 訊いてみようと人を探したが誰もいない。 野次馬どころか、車の中を除けば誰一人見当たらない。 いった…