2009-01-01から1年間の記事一覧

天女のアイラブユー

お祭りも和気藹々も集団行動も苦手だったので、 学園祭の時季はいつも、独りで放浪の旅に出ていた。 そんな学生時代を送ったぼくが、久しぶりに学園祭に足を運ぶ。 Tiger Fake Furときどき川本真琴さんのライブを見るためだ。 11月の最初の日。 地下鉄の市ヶ…

手術

スギナの群生のところどころに、 出遅れたかのようなツクシが、場違いに混じっている。 傍らではナガミヒナゲシが、 オレンジ色のつぼみを誇示している。 「草花を見るときは、私を見るときよりも、 優しい目をするんですね?」 愛さんが目を細めて言う。 「…

シリウス401

鍵のかかった黒い日記帳を拾った。 中が見られないので、本当のところ日記帳かどうかわからないが、 大事な代物であることは間違いなかろう。 裏を見ると幸いにも、ネームシールが貼ってあって、 住所氏名が書いてある。 正確に言えば氏名ではなく、「大神」…

melt melt melt...

線路際のカラオケスナックが 真昼間から暑苦しい演歌を垂れ流している。 2月なのに初夏の陽気。 空気も生臭く腐りかけている。 怪しく妖しいタイ式ヒーリングマッサージサロンの入り口で 長毛の猫が媚を売っている。 この店の開店以前からその辺りに生息す…

太陽肛門

ジョルジュ・バタイユの『太陽肛門』が、本の山から顔を出して、 淫らに微笑みかけた夜だった。 何年ぶりかでぱらぱらと、ページをめくって拾い読みしているうちに、 眠ってしまったらしい。 目が覚めたら、椅子の下に頭を突っ込んで、 朝のフリをした昼を迎…

隣の大家さん

このマンションに引っ越してきたとき、隣には、 富田林さん一家が住んでいたが、 その後、主人のアメリカ転勤を機に部屋を売りに出した。 すぐに買い取ったのが、丹後坂さんだ。 骸骨に浅黒い皮膚を貼り付けたかのような、年齢不詳の紳士だった。 家族がいる…