2013-01-01から1年間の記事一覧

俺との再会(2008年10月24日の日記)

月刊「美術の窓」の最新号だった。 表紙が俺に手招きしていたのだ。 レジかごの中に俺がいる。 「コンビニエンスストアの母子像」。 約束の時間まで10分ほど余裕があったので、 書店で時間をつぶすことにした。 アート系の雑誌の棚の前を歩いていたときだ…

折口信夫「死者の書」レビュー

した した した。耳に傳ふやうに來るのは、水の垂れる音か。 絢爛豪華なモノクローム 言霊に呪縛される やまとことばに酔う した した した。 冒頭いきなり、このオノマトペに呪縛された。 脳の襞の奥深く、記憶の闇の中で、太古の水が滴る。 死者の耳に聞こ…

雨だから

雨だから出かけた。 蕪を買うためだ。 なぜ蕪を買うかというと、雨だからだ。 雨だから食べたくなったのだ。 電機メーカーの寮の敷地をフェンス越しに見やると、 雑草に混じって、ネジバナが咲き乱れていた。 好きな花なので、しばし眺める。 八百屋ではスズ…

アラバスター

手塚治虫に『アラバスター』という作品がある。 主人公は、特殊な光線を浴びて、半透明の体になってしまう。 「グロテスクで淫靡な作品を書きたかったが、 世相などの影響からか、徹底的に救われないニヒルな作品となった」 として、手塚自身は自作の中でも…

微塵

ジンくんに会ってくれと言う。 ジンくんとはペットらしいのだが、 ペットと言うとミシオさんは必ず、 「ペットじゃないっ!」と反論する。 さもなければ黙りこくる。 最初は犬か猫だと思ったのが、どうやら違うらしい。 「飼うとかそういうレベルじゃないん…

おんなきっちゃ

なよなよと内股で歩く。 声も高く、一人称は「ぼく」だが、 時に男子っぽくない語尾がまじる。 小学校の同級生のS君だ。 四つ違いのお姉さんは、色白でほっそりした、 かなりの美人だった。 S君も、そのお姉さんに、似ていなくもないわけだから、 イケメン…

丙午

桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』を読んでいたら、 ヒロインの一人が丙午だった。 丙午の猫は多分、今は存在しないだろうが、 あと13年生き長らえば、出逢える可能性がある …などと、目の前の猫を睨みつつ、 どうでもいいことに思いを馳せてみる。 そういえば丙…

臓物通りへようこそ

グリム通りとか、アンデルセン通りとか、アリス通りとか、 メルヘンチックな名の通りが多い街だった。 名前はメルヘンだが、しかし、どの通りも、ごく普通の、 今どきの商店街だ。 総菜屋、薬屋、ファストフード、カフェ、スーパーなどの、 チェーン店に侵略…