学問失格
「武士道における衆道の研究」註1
「心中の体験的考察」註2
「竹取物語の思想史的考察」註3
「王朝における色好みの研究」註4
註1:衆道とは要するに男色、
つまり男同士の麗しき恋愛のことですね。
註2:近松の心中物をめぐって…
「体験的」がミソなわけで。
註3:かぐや姫は王朝貴族自身だった!
という衝撃の結論は画期的ではなかったか、
と自分では思っているんですけど…
註4:王朝時代だけでは収まりきらず、
江戸遊郭あたりまで辿ったところで、
構想が膨らみすぎて挫折。
以上は、私が、文学部の倫理学科に在籍中に、
取り組んだテーマの一部だ。
倫理学科の王道といえば、
アリストテレスやカントやヘーゲルである。
科内には、しかし、西洋倫理学とは別に、
日本倫理思想史という、
もうひとつの異端的部門があった。
私の専攻は後者である。
日本にあって「思想」と名のつくものなら、
なんでも対象となりうる。
名がつかなければ、つけてしまえばいい。
早い話が「なんでもあり」なのである。
それは冒頭のテーマを見ても、
お分かりいただけよう。
「なんでもあり」とは言っても、やはり学問である。
素材は問わないとしても、料理の仕方は、
「なんでもあり」とは行かないものらしい。
ゼミで私が何か発表すると、
学友と院生は、
「お前のは学問じゃない」と断じた。
教授は、
「非常に面白いんだけど…」とお茶を濁した。
私の発表を素直にほめてくれるのは、
アメリカ人留学生にして、
柔道と空手の有段者にして、
マッチョで、心やさしきゲイの、
W・S君ただ一人だった。
「すごいよ!すばらしいよ!君のが一番ね!」註5
註5:私自身はノンケです。
要するに俺は向いてないんだよな。
理屈こねくり回すのって得意じゃねえし…
私は早々に自らに
「学問失格」の烙印を押すしかなかった。
それにしても、しかし、学問じゃないとしたら、
いったい、なんなのか?
それがわかるくらいなら私は、学者になっていたろう。
※日本倫理思想史に興味など持たれた、物好きな方には、
下記の本がお勧めです。
面白くて読みやすい名著です。
佐藤正英著「日本倫理思想史」(東京大学出版会)
http://www.utp.or.jp/bd/4-13-012055-7.html