ポッポーとヒョロゲ

1日2回、つまり1往復しかバスの来ない村である。
隣接する家は1軒だけ。
他のお隣さんは遠く離れている。
そのいずれもTさんである。
Tは祖父母の家の姓でもある。


秋田の祖父母の家。
どこまでも広がる田んぼの中に、その家はあった。
垣根も境目もない広い庭。
その一角の、葉の豊かな木に、
腎臓形の、アケビのような青い実がなっていた。
なんだかひょうきんな顔をして、ぶら下がっている。


小学生の私が祖父に問う。
「あれ、なんていう実?」
「ポッポーさ」
祖父は答えた。
鳩の鳴き声のような名前が、面白かった。
いかにもその実に、似つかわしい気がした。


それが「ポポー」のことだったと知ったのは、
最近である。


http://www.jsdi.or.jp/~juuou_s/t2chiiki/html/papaw.html
http://www.kudamononosato.com/popo/popo-mi.html


同じ祖父母の家からは、よく、季節の贈り物が届いた。
漬物は定番だった。
糠漬け粕漬け梅紫蘇漬け醤油漬け…。
茄子に胡瓜に大根…季節によっては、さまざまな山菜もあった。


中でも私のお気に入りは、「ヒョロゲ」である。
なにやら芋虫のような形の代物。
小さな瓢箪のようでもある。
というよりも、手塚治虫の「ひょうたんつぎ」に近い。


実家から届くそれを母は、
「ヒョロゲ」と呼んでいたのである。


それがチョロギのことであると知ったのも、
最近である。


形が面白いこともあってか、正月が近づくと、紅白に染め分けて、
おせち用に出回ったりするようにもなった。


http://www2u.biglobe.ne.jp/~kanou/chorogi.htm
http://chorogi.jp/


ポッポーもヒョロゲも、もしかしたら、
その地方特有の、呼び名だったのかもしれない。
あるいは祖父なり母なりの、独創であろうか。


いずれにしても、私にとっては、
正式名よりこの呼び名のほうが、
いかにも、それらしく思えてならないのである。


追記:「ヒョロゲ」は子供の耳で捉えた音である。
    今思えば「ヒョロガイ」もしくは「ヒョロガィ」、
    というようにも聞こえた。