毒美

「青美」と書いて「しげみ」と読む。
自分でも大好きな名前だった。
1週間前までは…


1週間前、市の中学の文集に青美の詩が載った。
ちょっと照れくさかったが、うれしかった。


 おかあさんの目


  うちおかあさんは
  まみちゃんのおかあさんよりブスだ


  うちおかあさんは
  たっくんのおかあさんより老けている


  うちのおかあさんは
  まっこ先生より頭が悪い


  でも うちおかあさんの目は
  だれよりもやさしいんだ


  たれ目だけどね


家に帰って改めて掲載作品を見て愕然とした。
「青美」が「毒美」になっていた。


掲載する作品数を多くするために、
思いっきり小さな写植が選ばれていたこともあって、
すぐには気が付かなかったのだ。


死にたくなった。
誰も気が付かなければいいがと思った。


鮒釣り坂、通称首吊り坂の途中から横道に入ると、
パワースポットと噂される廃屋がある。
昭和の初め頃に建てられたものという。
木造二階建ての、ぬっぺりした飾り気のない家。
そこの庭にあるヤマモモの木で、首吊りが絶えないのだ。


北側の壁に、人一人がやっと潜り抜けられるくらいの裂け目がある。
中に入ったことはないが、丑三つ時にそこから中に入って、
お願いごとを99回繰り返すと、必ずかなうという。
ただしその願い事は黒いお願いでなければならない。


学校からの帰り道、青美はその坂を下っていた。
そして、閃いた。


青美は今夜3時にそこへ行って、お願いをしようと思っている。
「毒美」に気がついた人の、明日の給食の牛乳には、
毒を盛ってください、と。