華遍路

道端に、やたら目立つ橙色は、
ナガミヒナゲシの花である。
帰化植物らしいが、そうした種族の例に漏れず、
急速に増殖しているようだ。


漢字で書くと長実雛罌粟。
ひときわ長い果実が特徴である。


その長い実やお辞儀するような蕾が、
おいでおいでをしている。
気がつけば、目は橙色の法灯を追い、
足は人気の絶えた公園通りを辿っている。


草の臭いがよみがえる。
五年、十年、百年前のデジャヴュ。
十年、百年、千年先のデジャヴュ。


いつの間にか、草いきれの中で、
糸トンボの繊細な姿を追っていた。
その翅の震えに心臓が共鳴し、震えるように、ときめく。


はかなく頼りなく舞う糸トンボを追ううちに、
「はだかの広場」に来ていた。
糸トンボは影も形もない。
がっくりして、藤棚の下のベンチに腰を下ろす。


そのとき、満開の藤が滴り落ちてくる。
みるみる落下速度を増し、数を増し、量を増し、
頭から肩から…全身を容赦なく痛めつける。


いつしか全裸で紫の花びらに打たれていた。
滝行である。
半跏趺座で法界定印を結び、ひたすら唱える…


オンサンマヤサトバン
オンサンマヤサトバン…