梅に雨

「牛を食うなら、どこで生まれ育った牛であろうが、
どこでどんな事件があろうが、
朝から、もりもりユッケを食うくらいの心意気で食え。
さもなければ牛に失礼だ」


牛頭天王が、斧を振り振り言う。
僕はただ、首を振り振り聴いているしかなかった。
その主張には、しかし、全面的に同感だ。


朝から生肉を食ったことはないが、きょうも朝から、
何もつけずに硬いドイツパンを齧っている。


怒りをぶちまけるだけのためにやってきた牛頭天王は、
すでに消えていた。
しわがれた怒声の代わりに聞こえるのは、
粘液質な雨音だけだ。


固いパンの滓を歯ブラシで掻き落とすと、
雨の中に出た。


二つの公園に挟まれた石畳。
ずぶぬれの三毛猫が目の前を横切り、
途中で立ち止まる。
首から上だけをこちらに向けて、話し始めた。


「猫ってさ、結局は女だから、猫好きの男は結局、
女好きということになるのよ。
といっても、たぶん、M的な女好き」


それを聞いてなぜか、町田康氏の言葉を思い出した。
猫好きで知られる町田氏は意外にも、
「自分はどちらかというと犬」だそうだ。
犬だからこそ、自分にないものをいっぱい持っている猫は魅力的で、
学ぶことも多いのだという。


公園の花壇は、最近造り直されたばかりだ。
統一感がない上に、なんだかよそよそしい。
整形美人のような違和感も感じる。


近づいてよくみると、花の半分以上が造花だった。
こんなセンスのない代物が、今は流行っているのだろうか?


雨よけもかねて、樹木の多い近道に入る。


梅と思しき襦袢色の樹が、股から樹液を滴らせている。
樹影に隠れて甘く隠微な臭いを放ちながら。


夏は近い。
爛れた季節。