オドヤマさん

オドヤマさんは、とっても陽気なおねえさんだ。


おねえさんといっても実は、ぼくより年下だから、
本当は妹で、オドちゃんとか、愛称で呼ばなければならないのだろう。
だけどつい、おねえさんと呼びたくなる。
いや、ひょっとしたら、おばちゃんのほうがぴったりかもしれない。
というのもオドヤマさんは、どうだ、まいったか、という感じで、
臆面もなく体中に、無駄肉をつけているからだ。


いま、古っぽい丸みを帯びたラジカセで、
豊田道倫さんの「豚バラ殺人事件」を掛け、
曲に合わせて踊っているのだけれども、体中がぷるぷるゆれている。


「たこちゃんはいいね、ウエスト細くて。
女の子みたい。
あたしなんか、これだもんね」


そういって、おなかを剥き出して、肉を両手でつまんでみせた。


確かにぼくは、ウエストには、ちょっと自信がある。


「見せてやろうか?
でも女の子といっしょにはされたくないね。
しっかり割れてるんだから」


ぼくはTシャツをたくし上げて、オドヤマさんにおなかを見せた。
痩せているし、筋トレとかをやっているわけでもないので、
シェープアップされた腹筋というわけではないが、
無駄肉はゼロだから、まあ、自慢できるのだ。


「ほっそ〜い!
ワンピ着せたくなっちゃう」


冗談かと思ったが、オドヤマさんの目は、ちょっと真面目だった。


「着てみない?
っていうか、どうしても着てもらいたいんだ」


オドヤマさんは別の部屋に消えると、しばらくして、
黄色っぽいワンピースを持ってきた。


広げると、オレンジの地に、割りと大きめのひまわりの花が、
不規則にちりばめられた、かわいい柄だった。


「さすがに、これはちょっと…
いくらオレでも、無理っぽいけど…」


「大丈夫、絶対入るよ」


とりあえず、着てみるしかなさそうだ。


肩の辺りが少し窮屈で、丈が少し短かったが、
エストはけっこう余裕があった。


「ほら、かわいい」


オドヤマさんの、そのときの目が忘れられない。
笑っているようにも、泣いているようにも見えた。
哀しい目だった。


「スーちゃんが一番大事にしてたワンピなの」


スーちゃんとは、3年前から行方知れずになっている妹さんのことだ。
オドヤマさんにとってはたぶん、自分より何よりも大切な存在だった。